久しぶりの新規投稿です。
私のご近所で山と隣接する果樹園は何カ所もあります。それぞれの園主さんが野獣の被害に頭を悩ませています。最初の園は山と接するエリアが割と狭かったので、猿検知センサー(複数)をケーブルで親機と接続し電源供給と検知信号の伝達を行いました。
今回設置する事になった場所は、山に入り込んでいて三方が林野に接しています。かつ、面積も広く複数の園主さんが係わっている所です。センサーの設置場所も広範囲に散らばります。このような場所ではセンサー信号の伝達に無線を使うのが有利です。
と言うわけで、今回、複数配置した猿検知センサーの反応信号を、無線ユニットにより親機に伝達して警報を出すシステムを作ってみました。
経過
平成29(2017)年6月 設置場所の調査
平成29(2017)年7月 システムの設計 親機・子機の試作開始 マイコンのプログラム制作開始
平成29(2017)年8月 親機・子機の設置と調整 各回路やプログラムの改良
平成29(2017)年9月 完成
装置各部の概要
<無線システム>
我が園の環境監視システムにも利用している モノワイヤレス社の TWE-Lite_DIP および 無線タグアプリを用いる事にしました。その理由は、
➀ 安価である。 ➁ 低消費電力である。 子機は 焦電センサー + 無線ユニット の構成で単三乾電池で2年は持つ計算。 ➂ 2.4GHz帯で無線LANとの干渉があるが、民家から離れているため影響は少ない。 ➃ 電波の到達距離では樹木などの障害物の影響が大きいが、最近 TWE-Lite_RED という 高出力のものが発売されたので、それに変更すれば通信の安定をはかる事ができる。
TWE-Lite_BLUE の電波の到達距離は、メーカーによれば条件が良い場合 1km とのことです。しかし実用距離としては100m程度で、障害物があればもっと短くなります。設置に先立ってこの点が最も心配されました。現時点ではより高出力のTWE-Lite_RED_DIP が販売され到達距離もメーカーデータでは約3倍に伸びていますので、かなり広範囲にセンサー子機の設置ができると思われます。
<親機>
単管パイプを親機ポールとして立てて、次の親機の機能を集中させました。
➀ 親機の回路ボックス(親機基板+ソーラーチャージ回路) ➁ 受信用2.4GHzコリニアアンテナ(最上部へ) ➂ トランペット スピーカー(警報用)中古品利用 ➃ ソーラーパネル(10W) ➄ バッテリー(12V 車用)中古品利用
TWE-Lite には内蔵アンテナタイプと外部アンテナタイプがあります。外部アンテナタイプは技適認証により使えるアンテナが制限されています。しかし、無線タグ親機アプリは受信動作だけのようですので、電波法の対象外ということで 2.4GHzの無線LAN用高利得アンテナを使っています。TWE-Lite_BLUE 用の技適認証されたコリニアアンテナがあればそれを使う方が間違いありません。
猿を検知した時にはスピーカーから大きな警報音が鳴ります。将来的には親機から携帯電話網のメールによる連絡ができるよう検討していきます。実のところスピーカーによる警報音は騒音問題に発展するため問題が大きいです(山間部で周囲の理解があるから許される?)。早々にメール配信に移行したいと思っています。
<無線センサー子機>
猿がよく出るポイントにセンサー子機を配置します。園の周囲を全て網羅する事は金銭的にも労力的にもとても無理な話です。
今回、取り敢えず4ポイントに単管パイプを立てて設置しました。センサー子機の構成は次の通りです。
➀ 電源:単三乾電池2本(3V) ➁ センサー:焦電型赤外線(人感)センサー SB612A ➂ 無線ユニット:TWE-Lite_DIP(UFLコネクタタイプ)+無線タグ子機アプリ ➃ アンテナ:TWE-Lite専用外部アンテナ(より安価な屋内用アンテナを防水処理)
<TWE-Liteのアンテナ>
TWE-Lite の技適認証により使えるアンテナが2.14dbi以下で制限されています(モノワイヤレス社から認証済みで販売されている平面無指向性アンテナは2.14dbi以下です)。市販の2.4GHzのアンテナには6~9dBiでSMAコネクタタイプの物があり大変魅力的ですが残念ながら使う事はできないようです。実行輻射電力12.14dBm以下という規定もあるようで、それによればTWE-Lite-BLUE(送信出力2.5dBm)ならば 利得が10dBi 程度までのアンテナが使えることになります。モノワイヤレスさんになんとか頑張って頂く以外にありません。
電波法は受信機には適用されません。無線タグ親機アプリは基本的に受信動作のみでハンドシェイク動作も行っていないとのことですので、親機には高利得アンテナを使っても良いかなと判断しています。より確実にするには公開されている無線タグ親機アプリのソースを手直しして送信機能を確実に止めておくことも必要かも知れません。
設置後の様子
設置準備中の7月に最も山に近い梨園で猿の群れの被害に遭ってしまい150個ほどが食べられてしまいました。
システムの設置を急ぎ8月から試行的にシステムが稼働を開始しました。その直後、猿がよく出ると言う場所に猿の群れが襲来。無事センサーが反応し園主の皆さんが猿追い用の花火で追い払うことができました。その後はぐれ猿が1頭でくる事が時々あったようですが、あれ以来猿の群れは来なくなってしまいました。
この辺りにあまり出なくなってからも10km程離れた隣の地域からは猿を追う花火の音が良く聞こえてきます。猿がこちらへは来にくくなったのでしょうか。
この周辺の山沿いには前年に私が設置した別の猿検知警報システムがあります。また、メーカー製の猿検知警報システムを設置している園もあります。この一帯は猿が出ると人が直ぐに行って対応しています。それが「この辺りはゆっくり食べられない」と猿に学習させることになります。この一帯の猿対策の相乗効果が現れてきたのかもしれません。
猿ばかりでなく狐などにも反応していますし、強い日光や風の影響でセンサーが誤反応することもあります。その度に警報が鳴り響きますが、それも猿に警戒させることになっているのかもしれません。
というわけで今のところは効果ありと思われます。設置した地区の皆さんにも喜んで頂いていますが、まだ半信半疑といったところです。今まで散々に苦労させられてきたのですから当然です。過剰な期待はせずに何年か掛けて様子を見ていきたいと思っています。
2018/4/30追記
このところ設置してきた猿検知システムの有線バージョンと無線バージョンは数百m離れているほぼ隣接に近い場所です。更に隣の2百mくらい離れた園地にはメーカー製の猿検知追い払いシステムも稼働しています。これらの相乗効果なのか、この地帯の猿の群れの出現が、昨年7月以来ありません。それまでは猿の群れにやられ放題でしたので驚きです。先日、今年の猿対策の時期を前にしてそれぞれのシステムの動作確認をしてきました。今のところ特に問題は無さそうです。また、地域住民の方からの騒音苦情も今のところはないので大変助かっています。
気を許さず引き続き様子を見ていきたいと思います。