この地方は市田柿の産地です。下伊那郡高森町市田で生まれたので市田柿と呼ばれるようですが、元々が干し柿の流れをくむものです。渋柿を収穫した後、皮を剥き吊して乾燥させると渋みが抜けて柿本来の甘みが表れます。昔から冬場の保存食にされてきました。
市田柿は乾燥させる過程の作業により表面に粉が吹いて真っ白くなります。また果肉はきれいなオレンジ色をしています。大きく適度に熟した原料柿を使うことで、乾燥後の仕上がりが羊羹のような食感になり、柿の強い甘みが楽しめます。甘党には最高です。また小さ目の原料柿や少し若い原料柿を干したものは少し堅くて甘みも程々で、甘すぎるのは苦手という方に好まれます。
11月から1月まで、この地域の多くの農家(近年は企業さんも進出)にとって重要な収入源となっています。
柿のれん(柿暖簾)
柿の皮を剥いた後、紐に吊して乾燥させます。昔から農家の軒先に沢山吊されていたため「柿のれん」という呼び名が付きました。この呼び名は現在でも使われています。ただし、天候不順に影響されないよう、また衛生面にも配慮して専用の柿干し場が設置されるようになってきています。我が農園の干し場の一つを写真に示します。
表面の白い粉
乾燥過程で柿を揉むことにより、次の写真に示すようにきれいな白い粉が吹いてきます。適度に乾燥したものが出荷の対象となります。専用のパックやビニルに詰めて、農協などを通じて全国に発送されていきます。
表面の白い粉は柿の中からしみ出た成分が乾燥して結晶化したもので、主な成分がブドウ糖と言われています。
それだけ舐めても特に甘く感じられるわけではありませんが、白い粉がしっかりと吹いた柿ほど食べると甘いです。
渋柿のタンニン
渋柿もとろとろに熟すと甘くなります。これを一般的に「熟柿(じゅくし)」と言っています。渋柿のうちに収穫して皮を剥いて干すと、乾燥が進むに従って渋みが徐々に抜けていきます。渋味を感じさせる原因物質は「可溶性タンニン」だそうです。それが「不溶性タンニン」に変化することで渋味を感じなくなり、柿本来の甘みが感じられるようになるようです。甘柿は早くから「不溶性タンニン」に変化するため渋くないそうです。
市田柿 雑感
きれいで美味しい市田柿を作るにはかなりの熟練が必要です。近年は毎年の気象の変化が大きく特に難しくなってきています。今年(H28)は11~12月に掛けての天候が寒く雨も少なかったため乾燥が進みました。しかし、柿の表面だけが乾いて中の乾燥が進まないことで、かえって渋味も抜けにくくなってしまいました。乾燥課程の管理は難しいものです。
「市田柿」は「地域団体商標」として登録された生産品で、現在価格もそれなりに維持されています。この地域の多くの農家にとって「市田柿」は生命線といっても過言ではありません。