「湿度を正確に測りたい」の投稿からはじまった湿度計の精度に対する疑問ですが、「飽和塩法による校正」や「通風乾湿計の実験」を経て一定の評価を出すことができました。精度が保証された標準器を使って比較したわけではありません。あくまで私のできる限りの範囲内で行った検証の結果です。
1.乾湿計
乾湿計を普通の状態で使うときには、常に+(プラス)数%程度の(最大で+10%近い)誤差があることが分かりました。残念ながら「乾湿計はそれ程正確ではない」というのが結論です。
簡単で良いので通風乾湿計にすれば、かなり正確に測定できることも分かりました。ただし、湿度を表で求めるのではなく、計算で通風乾湿計として求める必要があります。
(エクセルによる通風乾湿計の湿度換算表は 湿度を正確に測りたい のページに掲載してあります)
アスマン通風乾湿計は標準器として使われるくらい精度が高いのですが、最低5万円はする高価な物ですので一般的な使用には適しません。私は今回の乾湿計を使ってもう少しきちんとした通風乾湿計を作っておきたいと思っています。
乾湿計を普通の状態で使う場合、計算式の係数を調整することにより+側に寄った誤差を少しは補正できるような気がします。乾湿球の間にあるメーカーが作った表についても少し気になるところです。
程度の差はあれ乾球・湿球間に誤差があります。今回 7,400円 もした乾湿計でも0.2℃の誤差がありました。それなら 千円程度のアルコール温度計を使った乾湿計の方が見やすくて良いような気がしています。
2.デジタル温湿度計 xx-xxxx
今回測定したものは当地域の業界団体が斡旋してきたもので、当地域の農家が多く使っている製品です。我が農園でも同型のもの4台を5~6年前に購入して使ってきました。今回の全ての結果を総合すると湿度の高低に係わらず -15 [%RH]程度の誤差があることが明らかとなりました。メーカーの公称精度を大きく上回る誤差があることに驚いたのは言うまでもありません。
なお、指示誤差はこれだけ大きいのに、驚くことに個体差はほとんどなく飽和塩法では4台の差が 2 [%RH]以内でした。
メーカーさんに対して今回のデータを示して問い合わせをしてみました。
メーカーさんの回答 ・センサーの劣化が原因で精度が低下する。 ・使用環境にもよるが、4~5年も経過すれば精度が低下するのは避けられない。 ・この機種は「抵抗式(抵抗の変化を利用した)センサー」を使っており、結露により劣化 が進む。(劣化は元に戻らない) ・「容量式(静電容量の変化を利用した)センサー」を使った機種もある。「容量式」は 結露に対しては強いが、使用環境による精度の低下が免れる訳ではない。 ・湿度計は最低年1回の校正を薦める。ただし、センサーが劣化したものは調整により誤差 を無くすことはできない。表示された値を補正して読むか、買い換えるしか無い。 ★ 今回、問題となっているデジタル温湿度計をメーカーさんに送り、メーカーさんの校正 環境でも測定して頂きました。その結果、私の測定とほぼ同様の結果が得られています。 おかげで私の素人測定もそれなりに正確だったことも示してもらえました。
このようにデジタル温湿度計についてかなり厳しい回答を頂きました。簡単に言えば2~3年で買い換えなさいと言われていることになります。
私の使用環境では近年結露が多く発生しています。使用も5年以上ですので、これではメーカーの責任を問えないという結論に至ってしまいました。それにしても「結露でセンサーが劣化する」「2~3年で精度が保証できなくなる」などと説明書のどこかに書いてあったでしょうか?。
私としては「容量式センサー」を使った湿度計についてまだ期待をもっています(SHT21も容量式です)。私の使用環境では消毒用エチルアルコールなどを多用しますのでドリフト(劣化)も気になります。容量式センサーを使った温湿度計について揮発性化学物質などの影響についてこれから調べてみたいと思っています。近年はデジタル温湿度計のメーカーの仕様書にセンサー方式も明記されるようになってきているようです。(残念ながらパッケージには表示されていない)
今までメーカー名と型名を伏せてきましたが、その必要がなくなったので下に記すことにしました。
3.アナログ温湿度計 EX-2737
今回の実験結果を総合すると -6 [%RH]前後の誤差がありました。メーカーの公称精度±2%RHを大きく超えています。「飽和塩法による校正」や「通風乾湿計」の結果では誤差のバラツキが4 [%RH]に収まっていますので、元々の精度は持っているといえます。
実は購入直後に飽和塩法で校正してみたところ、塩化ナトリウム でも 塩化マグネシウム でも誤差が1%程度で感激しました。その後屋根下の日陰に1日置いたところ、一時大きくマイナス側に(最低目盛の10%を超えて温度の30℃の目盛位まで)振れてしまいました。その後にちょっとした落下事故もありました。今まで投稿した実験結果はその後に測定したものです。
あるサイトではアナログ式湿度計が落下などの衝撃でズレることが指摘されていました。
それにしても一時大きくマイナスに振れたのは何だったのでしょうか。
4.アナログ温湿度計 CR-151
「湿度を正確に測りたい」のページでも評価しました。基準としたSHT21の補正データとのかなりの一致が見られました。特異点を1点を除きメーカーの公称精度 ±5 [%RH]以内に収まっていました。
今回購入した物は誤差を修正しようとして感湿部をいじりすぎました。補正した湿度値のところは正しくなっても、他のところがズレてしまい、目盛り全体では使い物にならなくなってしまいました。十分な検証が出来なくなってしまいましたので、善し悪しの判断は差し控えたいと思います。
5.デジタルセンサー SHT21(SHT-21)
詳細は 自作環境監視システム 概要 自作環境監視システム 子機 を参照
「飽和塩法による校正」では 誤差±4[%RH]以内、「通風乾湿計との比較」では 相互の差が3 [%RH]以内に収まっています。誤差の原因については「センサーの実装上、接着剤やテープによるガスなどが影響することもある」という情報も頂いていますので、必ずしもセンサー単体の誤差とは言い切れません。現在使っているのは他社による小型基板実装品です。また、自作環境監視システムのセンサー子機への実装に当たり、少し接着剤も使ってしまいました。
SHT21 について良くご存じの方から「センシリオン社のSHTシリーズは優れており産業界でも定評がある」とのお墨付きを頂いたこともあり、今回の実験を通して準標準として扱ってきました。ここまでの段階では決して間違ってはいなかったと思います。
容量式センサーの取り扱い上の注意について、センシリオン社の資料を手に入れることができました。それによると
◆ SHTxxシリーズ(容量式センサー)の取り扱い上の注意 ・溶剤や有機化合物のような揮発性化学物質との高濃度での長時間ばく露は避ける。 ・ケトン、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、トルエンなどは湿度の 測定値にドリフトを引き起こす可能性がある。 ・これらはエポキシ材、糊、接着剤などにも含まれる。またプラスチックや梱包材にも可塑 剤として使用されている場合があるので保管するときにも注意が必要である。 ・ドリフトのほとんどは自然に復帰しない。ドリフトはベーキング処理などにより元に戻せ る可能性もある。
デジタル温湿度計 xx-xxxx の項でも書きましたが、エタノールなど農産物の加工工程で生ずるガスの影響が心配されます。時間がかかりますが、このセンサーのドリフト(劣化)についてもこれから実験して調べてみたいと思っています。
雑感と御礼
湿度を正確に測ることがこんなに大変なことだったとは思いませんでした。最初から専門機関に校正を依頼することもできたはずと思い、最近になって近隣の専門機関である飯田市工業技術センターに問い合わせたところ、ここでは湿度計の校正はできないと言われました。長野市の工業試験場ならばできるとのことですが、とても長野市まで行く気はしません。南信州にとって県庁所在地の長野市が遠すぎます。
今回「飽和塩法による湿度計の校正」という強い味方を得ることができました。33%RHおよび75%RHの2点ですがそれで充分です。
今回、半分楽しみながらいろいろと実験したり、メーカーさんに問い合わせたりと、大変に良い勉強になりました。また、センシリオン社のSHTセンサーを採用されているメーカーさん(今回実験した温湿度計のメーカーさんではありません)には直接私の所へおいで頂き、情報交換させて頂き大変恐縮しました。ご対応頂いた皆様に深く感謝致します。
誇大表示
一般的に市販されているデジタル湿度計の精度は良くても5[%RH]程度で、元来がそれ程正確に測定できるものではないということです。それなのにデジタル表示で「56.3%」などと小数点以下(有効数字3桁)の表示までされるのですが全くおかしなことです。普通の人はそれに騙されて「正確な製品」だと勘違いしてしまいます。「誇大広告」ならぬ「誇大表示」ではないでしょうか。
★ 実験で比較したセンサー および 湿度計
温湿度センサー SHT21 の特性(データーシートより) | ||
湿 度 | 温 度 | |
---|---|---|
分解能 | 12Bit 0.04%RH | 14Bit 0.01℃ |
許容差 標準値 |
(20~80%RHの間)±2% (それ以外)±3% |
(0~60℃の間)±0.3℃ (-20~0℃、60~80℃)±0.5℃ |
その他 | – 完全校正済み(一個ごとに校正されている) – 低消費電力 - 優れた長期安定性 |
|
メーカー | センシリオン SENSIRION 社 |
SHT21 : Sensirion(センシリオン) 温湿度センサー SHT21 公称精度 ±2%(20~80%RH) 自作環境監視システムの子機(2台)には、チップのSHT21を小基板に実装 した SHT-21温湿度センサーモジュール(Strawberry Linux社)を使用 乾湿計1: シンワ測定 乾湿計 E-2 72706(アルコール) (指示誤差=乾球-湿球=+0.1℃) 乾湿計2: ヤガミ オーガスト乾湿計 0476900(水銀) (指示誤差=乾球-湿球=-0.2℃) EX-2737: エンペックス気象計 スーパーEX 高品質温湿度計 アナログ壁掛 EX-2737 公称精度 ±2%(35~75%RH、常温にて) xx-xxxx: A&D社 外部センサー付きデジタル温湿度計 AD-5680 公称精度 ±5.0%RH(25.0~69.9%RH 25℃の時) (農園で今まで使用してきたもの4台。測定実験には1台を使用) CR-151 : CRECER(クレセル)アナログ温湿度計 CR-151 公称精度 ±5%以内(35~85% 20~25℃)
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