飽和塩法による湿度計の校正

湿度を正確に測定することは我が農園の課題でした。今回、湿度計を簡単に校正する方法として「飽和塩法」があることを知りましたので、実際に試してみることにしました。

「校正」などと大それた言葉を使っていますが、私の工房で行うことですので「試験」程度の内容です。

1.飽和塩法とは

飽和塩法とは「塩化ナトリウムなどの塩類の飽和水溶液と熱的平衡状態にある空気の相対
湿度は塩の種類と溶液の温度で定まる」という原理を用いて湿度計を校正する方法で、
JIS に規定されている。
表1 塩の飽和水溶液と平衡にある空気の相対湿度[%RH]
10℃ 20℃ 30℃ 40℃
塩化カリウム 86.8±0.4 85.1±0.3 83.6±0.3 82.3±0.3
塩化ナトリウム 75.7±0.3 75.5±0.2 75.1±0.2 74.7±0.2
臭化ナトリウム 62.2±0.6 59.1±0.5 56.0±0.4 53.2±0.5
塩化マグネシウム 33.5±0.3 33.1±0.2 32.4±0.2 31.6±0.2

JIS の規定などというと難しく感じられます。ネットで検索すると簡便に行う方法がいくつか紹介されていましたので、その方法を真似て行うことにしました。

(JIS B 7920:2000 による飽和塩法の規定についてはこのページの最後に掲載)

2.より簡便な方法で試してみた

塩(えん)をお皿へ盛り結晶が残る程度に精製水を少し入れます。チャックの付いた気密性のあるビニル袋へ、塩を溶かしたお皿と湿度計を一緒に入れて空気をできるだけ抜いてチャックを閉めます。できるだけ温度変化の無いところで数時間置けば湿度が安定するので、その時の湿度と温度を読み表1の真値と比較します。
使用する塩の種類は、簡単に手に入り危険性も少ない「塩化ナトリウム」と「塩化マグネシウム」(にがりの成分)の2種類(2測定点)とします。

飽和塩法0

簡便な校正を試す

2日ほど掛けて校正を行ってみましたが、あまり安定した校正ができませんでした。問題点を次に示します。
➀ 同じ袋の中でも皿の近くと端で湿度が数%異なる。
➁ 安定するまでに1時間以上掛かりその間に室温が変化することで値も変化する。(気温変化による空気の湿度変化に平衡が追いつかない)
➂ 複数の機器を同じ条件で比較できない。

3.湿度校正箱を作って校正

次のように湿度校正箱を作りました。

飽和塩法1

適当な大きさの気密性プラスチックボックスを使います(あまり大きすぎない方が良いようです)。塩(えん)を底へ数mmの高さに敷き詰め精製水を数cc入れてシャーベット状にします。穴が大きく開いたプラスチック製のスノコを敷き、その上に空気攪拌用ファンと湿度計を置き、蓋を閉めます。ファンの電源は、プラスチックボックスに2つのネジ(M3)を貫通させて固定し、そのネジを通じて通電させるようにしました。

湿度校正箱の使用材料

プラスチックボックス : ウィル キッチンボックス 密封保存 S-60 ホームセンター 
                (縦216×横309×高さ238mm 9.5リットル)
プラ製スノコ : どんとキャット(猫をよせつけない) DAISO (逆にして使う)
ファン : 小型シロッコファン DC12V 6W F(私)の工房にあったもの
直流電源装置 : DC6~12V程度可変のできる物

複数の湿度計を中に入れて同じ条件で校正できます。湿度の指示値は十数分で安定し、先に行った方法よりははるかに早いです。安定後は、ファンの強さを変えても値の変化はほとんどありません。ファンを強くすると発熱で中の温度が上昇してきますが湿度の表示値はほとんど変化しません。ファンの位置を変えたり湿度計の配置を換えてみましたがほとんど影響はありません。以上、かなり安定した測定ができることがわかります。
なお、湿度計によって小数点以下が表示される場合は四捨五入し無視しています。

➀ SHT21 の校正

飽和塩法2b

SHT21 塩化マグネシウム

飽和塩法3b

SHT21 塩化ナトリウム


中に入っているのは自作環境監視システムの「子機」でセンサーには SHT21 を使用しています。上の表示器は「親機1」で、それぞれグラフィックLCDのタイプが異なるため表示色も異なっています。左側と右側でそれぞれの子機の信号をそれぞれの親機で表示しています。
(表示を早く安定させるために子機の蓋を少し開けてあります。)

➁ 乾湿計(通風状態) の校正

飽和塩法6

乾湿計(通風状態)

飽和塩法7b

乾湿計(通風状態) 塩化マグネシウム

飽和塩法6b

乾湿計(通風状態) 塩化ナトリウム


乾湿計を入れて校正してみました。斜めにして入れましたが、湿球用水壺の水はかろうじてこぼれていません。ファンで空気を攪拌しているので実質上通風状態での測定となります。通風乾湿計では2~5m/secの風速が必要ですが、その程度の空気の流れはできていると思われます。湿度の計算は当然のことながら「通風乾湿計」として行いました。計算の仕方は「湿度を正確に測りたい」のページをご覧下さい。(乾湿計に付いている読み取り表は無視)
測定精度に影響する心配があります。それは乾湿計が常に水を蒸発させているため小さな校正箱では平衡状態になりにくいのではないかということです。特に湿度が低い塩化マグネシウムでは影響が大きいと思えます。

湿度の計算は「通風乾湿計」として行った。(乾球の指示値補正-0.1℃)
 塩化マグネシウム 乾球:17.3℃ 湿球:10.1℃ より 湿度=39%RH
 塩化ナトリウム  乾球:16.5℃ 湿球:13.9℃ より 湿度=76%RH

➂ xx-xxxx の校正
数年前に購入し今まで我が農園で使用してきたデジタル温湿度計です。4台をまとめて各校正箱に入れて行いました。

飽和塩法4b

xx-xxxx 塩化マグネシウム

飽和塩法5b

xx-xxxx 塩化ナトリウム


xx-xxxxは測定値が20%以下となると自動的に表示を[---]としてしまうため、塩化マグネシウムにおける校正では3台は値を読むことができませんでした。かろうじて1台が「20.5%」を表示していました。4台とも20%程度でほぼ安定しつつあったので表2の校正結果には全てを[20%RH]としてあります。

表2 校正結果
塩化マグネシウム 塩化ナトリウム
測定温度
[℃]
真値
[%RH]
表示値
[%RH]
誤差
[%RH]
測定温度
[℃]
真値
[%RH]
表示値
[%RH]
誤差
[%RH]
SHT21➀ 15 33 37 +4 14 76 76 0
SHT21➁ 15 33 34 +1 14 76 73 -3
乾湿計(通風) 17.3 33 39 +6 16.5 76 76 0
EX-2737 16 33 30 -3 16 76 70 -6
xx-xxxx➀ 15 33 20 -13 15 76 61 -15
xx-xxxx➁ 15 33 20 -13 15 76 62 -14
xx-xxxx➂ 15 33 20 -13 15 76 60 -16
xx-xxxx➃ 15 33 20 -13 15 76 61 -15

SHT21 および 各温湿度計のメーカーデータ は「湿度計の精度 まとめ」の最後にまとめてあります。

使用した薬剤等
 塩化ナトリウム : 一級 塩化ナトリウム NaCl 99.5% 500g入試薬 (昭和化学 株)
 塩化マグネシウム: 特級 塩化マグネシウム+六水和物 MgCl2・6H2O 500g入試薬
              (林純薬工業 株)
 精 製 水   : 精製水 不揮発物0.005% 500g入 (昭和化学 株)

4.結果について

表2の校正結果を見ると 温湿度センサー SHT21、シンワ乾湿計、エンベックスEX-2737、の誤差は数%RH以内に収まっています。ただし、SHT21 および EX-2737 はどちらもメーカーの公称精度よりは悪い結果となりました。

・SHT21 の誤差には「センサーの実装上の問題による誤差」等も含まれるので、全てがセンサー単体の誤差とは言い切れません。
・EX-2737は購入して間もないのですが、少し衝撃を加えてしまったため表示がマイナス側に移動してしまった感じがあります。
・乾湿計は塩化マグネシウムで+側に大きい誤差が出ています。先に書いたように、特に低い湿度で平衡状態になりにくい問題が影響するのではないかと思われます。乾湿計を飽和塩法で校正すること自体に少々無理があると思いますが、塩化ナトリウムで誤差ゼロは驚きです。
・従来農園で信頼して使ってきたデジタル湿度計xx-xxxx は4台全てが-15[%RH]前後の誤差がありました。これは「湿度を正確に測りたい」のページの結果とほぼ一致しました。

環境監視システムを自作する中で「どうしてこんなに値が違うのか?」と戸惑った湿度測定の問題解決がやっとここまできました。環境監視システムの温湿度センサーとして選択した SHT21 の精度は充分に信頼できるレベルであることが確認できて安堵しました。

次は「湿度を正確に測りたい」のページで疑問として残った「乾湿計」の精度について、もう少し検討を加えたいと思っています。

御礼
センサー に詳しい方から今回の飽和塩法についてのアドバイスをいただきました。その時にはよく意味がわからず後回しになっていましたが、今回やってみて問題の解決に大変役立ちました。改めてご指摘に感謝しています。
また、飽和塩法による実際の校正方法は、ネット上の複数のサイトを参考にさせて頂きました。大変助かりました。

5.JIS B 7920:2000 飽和塩法の規定より

5.3.5 飽和塩法
塩の飽和水溶液と平衡状態にある空気の相対湿度は,塩の種類と溶液の温度で定まるので,塩の飽和水溶液を入れた容器を一定温度に保って平衡状態を作り,所定の湿度を発生させる。

a) 湿度値の求め方
湿度発生に使用する塩と,その飽和水溶液と平衡状態にある空気の相対湿度を 表1 に示す。温度を測定して,表1 から相対湿度を求める。
飽和塩法では,過剰の塩を含む飽和水溶液を密閉容器中に入れ,温度と湿度を平衡させることによって一定湿度が実現される。容器の材質や形状は自由であり,金属やプラスチック製の円筒状や直方体形の容器やガラス製のデシケータが使用できる。なお,速やかに温度と湿度の平衡を達成し,安定に湿度を維持するために次の点に注意する。
− 溶液の表面積は大きくし,空間の体積は小さくする。
− 溶液は,固体の塩の多い状態又はシャーベット状(スラリー状)にする。
− 空間の大きい容器を使用するときには,ファンによって空間をかくはん(攪拌)する。

b) 湿度値の不確かさ
表1 では,塩の飽和水溶液と平衡にある空気の相対湿度の拡張不確かさ (k=2) を与えているが,実際に一定湿度を実現するうえでは,次のように平衡が完全ではないことなどに起因する不確かさが加算される。
− 溶液と空間の温度差
− 空間の温度分布
− 湿度平衡の不完全さ
− 溶解平衡の不完全さ
− 塩の中の不純物
− 周囲温度の変動

関連ページ

1.湿度を正確に測定したい
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5.湿度計(センサー)の経年劣化 5年後の様子