はじめに
炭素循環農法(たんじゅん農法)とは「木材チップなどの炭素資材を畑の表面に大量に入れて糸状菌やキノコ菌などの菌類を育て、後は種を蒔くだけ、苗を植えるだけで、無肥料・無農薬の野菜が沢山作れる」という夢のような農法です。
炭素循環農法を知るきっかけになったのは、農業関連本の記事。何だろうと思いネットやYoutubeで調べてみると、この農法を提唱されたブラジル在住の林幸美さん、国内で実践と普及活動をしておられる城雄二さん、この農法に引かれて実践中の方々が沢山の情報をアップしておられました。それを何回も見る内に私も引き込まれ、今年(2021年)4月から実際にやってみることにしました。
もしこの農法が全国に広がれば、日本が大部分を輸入に頼っている肥料・農薬が不要となり、国内における食料生産を持続可能な循環型にできます。現代の農業はチッソ・リン酸・カリなど肥料の大部分を限りある鉱物資源に頼っています。畑に投入された肥料は全てが農作物に吸収されるわけではなく、土壌に蓄積されたり雨に流されて最終的に海に行きつき、地球の汚染が限りなく進んでいくことになります。農薬は基本的に毒であり使わない方が良いのは当然です(残念ながら、日本の農薬の制限は緩いと言われている)。現在の農業の状況を見るとき、炭素循環農法は「夢のような農法」と言っている段階ではなく、可能性があるならどんどんやるべき段階に来ているのではないか・・・というのが私の思いでもあります。
炭素循環農法を試す条件
年齢的に後が少ない私にとってできるだけ早く簡単に結果を出すために、できるだけ条件の良いところで試したいと考えました。
1.炭素循環農法の言う発酵型の土に持っていくためには、畑は地下水位が低く雨が降っても水が早く引くところが良い。沼地のようにジメジメしている所は適さない。日本は雨が多いので水の引きが悪い平地ならば、畝を高くするか周りに排水溝を掘る必要がある。
2.長年慣行栽培を行ってきた畑は残留肥料が抜けるまでに時間が掛かる。早く結果を出すためには長年耕作放棄されていたところの方が良い。何年も雑草が生い茂っていたところは肥料分が消費され、流失もしている。また有機物が表面を覆ってそこそこ炭素循環している(微生物も活動している)。
3.水が土中深くに染み込んで引くために、また野菜の根が深くまで張るために硬い耕盤層が障害になる。田んぼとして使っていた所には元々耕盤層がある。長く耕作されてきた畑も耕盤層ができている可能性がある。
4.炭素循環農法を行うには木材チップや廃菌床などの炭素資材が沢山必要です。炭素資材が簡単に手に入ることは重要です。最初は廃菌床のように発酵・分解がある程度進んでいるものが良いようです。また、畑の状態(微生物の量や多様性)が良くなれば分解が進んでいないチップでもよくなるとのこと。
今回試す畑
条件をほぼ満たす約150㎡(1.5a)の場所を確保しました。
炭素循環農法で使うのは写真の手前の斜面部分。
ここは私が元々借りて管理している未耕作地の一部で、扇状地で石が結構出てきます。過去に畑として使ったことがあるかどうかは不明です。全体が傾斜面で雨の引きは早いです。長年にわたり放置され雑草に覆われていたところで、かつては地主が、最近は私が年に何回か草刈りをしてきました。
3年ほど前には私が羊を放牧したのと、その後は一部でトマト、カボチャ、ジャガイモを慣行栽培で作っていました。従って少しは肥料分が残っているかもしれません。他は荒地(草刈り場)です。
耕盤層は不明ですがイボ竹を差してみると場所によっては40cm程入るところもあります。石に当たって入らない所が多い感じです。
炭素資材の確保について
木材チップ
私の農園では冬場に行う果樹の剪定で大量の枝(剪定枝)が出ます。今までほとんどを焼却処分し一部はチップにして牛糞堆肥や石灰窒素などを混ぜて積み上げ、チップ堆肥として使ってきました。(所有チッパー:大橋GS125)
炭素循環農法をやってみたいと思ったのは、この剪定枝のチップの有効活用を考えたことが理由でもあります。という訳で木材チップは自前で毎年充分に確保することができます。
廃菌床
当地はシメジを中心としたキノコ栽培が盛んな地域でもあり、廃菌床は手に入れられ易いと思われます。近年は廃菌床を利用する農家も増えているようです。
今回用意した炭素資材
[資材1]
3/14 剪定枝をチップ化 約3立米
[資材2]
4/18 廃菌床(キノコ屋さんより) 約2立米
[資材3]
4/23 剪定枝をチップ化 約3立米
[資材4]
2年前のチップ堆肥 チップに牛糞・石灰窒素・水を混ぜて積み上げ 約4立米
(分解はかなり進んでいる。チッソ分がどの程度含まれているか心配)
畑づくりの経過
2021/4/5
トラクタにて浅く耕起(1回目)
雑草の根を掘り起こすことが主目的。根も炭素資材として使うため出来るだけ浅く1回だけ起こした。大きな石は取り除いた。
2021/4/6
炭素資材撒き 資材1 約2立米
2021/4/6
トラクタにて浅く耕起(2回目)(深さ10cm前後)
2021/4/19
炭素資材撒き 資材2 約1.5立米
2021/4/19
トラクタにて浅く耕起(3回目)(深さ5cm前後)
畝幅を1m、通路幅を0.5mとし、畝のみ耕起(トラクターのロータリー耕起幅は1m)
2021/4/21~5/10
ビニル(10m×15m)で覆い初期化処理(約20日間)
2021/4/30~
野菜育苗(ビニルハウスにて)
2021/5/11~
野菜苗植え(購入苗も含む)と種蒔き
2021/5/15~
種蒔き・苗の定植後に炭素資材を追加
畝中・・・条間・苗間に約2~3cmの厚みに
通路・・・約2cmの厚みに
経過を写真で
2021年4月19日
3回目の耕起の後。
縦に畝を6.5本配置。畝幅1m、通路0.5m。
(畝幅1mのみ耕起 平畝)
2021年4月21日~5月10日
太陽熱処理(初期化処理)20日間
必須ではないのですが、畑を少しでも早く良くしたいと考え、悩んだ末やることに。
全面をビニルで覆い空気を遮断して太陽光で加熱。
もう少し早くから1ヶ月位はやりたかったのだが、手配したビニル資材が届かず。ぎりぎり20日で終えて次の段階へ。
2021年5月11日
ビニルを剥がして種蒔きおよび苗植え開始
これ以上の畝立ては行わない。3回目に耕起した幅(1m)をそのまま平畝として使う。
まずはカボチャとトマトの支柱立てから。