栗の害虫と防除

栗の栽培を始めて約10年。まだまだ未熟ですが当初に比べれば少しはわかるようになってきました。
栗の害虫と防除について私なりにまとめてみました。これは私自身のメモでもあります。

★ 2024年より伝兵衛農園では無農薬栽培に切り替えました。
 現在、殺虫剤は一切使っていません。防除の記事は参考までに!

1.私の地域の害虫の発生と防除的期

参考文献
長野県 農業関係試験場 農作物病害虫データベース
島根県 農業技術情報 病害虫データーベース など

モモノゴマダラノメイガ

幼虫
モモノゴマダラノメイガ

● 生態
樹皮の隙間などにまゆを作って越冬。成虫の発生は年3回
> 越冬世代 6月中旬頃
> 第1世代 8月上旬頃
> 第2世代 9月上旬頃
クリは第1、第2世代成虫によってイガのトゲの基部に産卵。ふ化した幼虫は栗の果実内に食い進み、老熟すると果実から脱出して蛹になる。
落果した栗やイガには丸い穴が開き幼虫も見える。穴の中に隠れている幼虫は水に浸すと出てくる。
● 防除
早生種では8月上中旬に、中生種では8月下旬~9月上旬に、晩生種では9月上中旬に殺虫剤を散布する。

クリシギゾウムシ

成虫と産卵穴

渋皮の下を食い進んだ幼虫

● 生態
成虫が口吻でクリのイガに穴をあけ果皮と渋皮の間に産卵。
ふ化した幼虫は果実内を食害。幼虫は糞を外に出さないので被害果であることがわかりにくい。栗をよく見ると産卵した跡の小さな穴が開いている。
老熟した幼虫は穴を開けて脱出。土中でまゆを作り越冬して翌年に成虫に。中には3年越冬して成虫になるものもあり。
> 成虫出現:8月下旬~9月中旬(H27岐阜県中津川市:8/17~9/10(ピーク8/31))
> 産 卵 :9月下旬~10月上旬(H27岐阜県中津川市:9月中旬以降)
> 脱 出 :10月中旬から11月上旬
● 防除
成虫の発生期に殺虫剤を散布する。9月上旬(発生ピークの1週間前~ピーク頃)

クリミガ

我が園も令和2年に大発生?。私自身クリシギゾウムシと被害果の区別がよくできていない面もあります。そのため写真は無し。

● 生態
年1回の発生。羽化後間もなく果梗の基部や葉裏に1個ずつ産卵。ふ化幼虫は直ちに果実に食入。被害果は上皮と座の境に小さな穴があいている。穴の付近に細かい虫糞が出ている。渋皮の下が広く食害されるが内部には虫糞がほとんどない。老熟幼虫は10月下旬以降に穴を開けて脱出して落葉下などで繭をつくって越冬。
> 羽 化:8月末から9月中旬
> 産 卵:羽化後まもなく産卵。ふ化後直ちに果実に食入(9月中・下旬)。
> 脱 出:10月下旬以降
● 防除
成虫発生期に殺虫剤を散布する。9月上旬

2.害虫対策と実際の防除について

基本的な害虫対策

・被害果を栗園に放置せずに園外に持ち出し焼却処分します。放置すると脱出した害虫が越冬し翌年以降の被害につながります。私はイガも収穫時に全て拾い被害果と共に焼却処分しています。これは病気対策としても必要です。
・被害を受けた栗やイガは木に絡みついて落ちにくいので、樹高の高い大木では老熟幼虫の脱出を許してしまうことになります。樹高が低い木は最終的に全ての栗を強制的に落とします。

★ 2024年より伝兵衛農園では無農薬栽培に切り替えました。
 現在、殺虫剤は一切使っていません。以下の記事は参考までに!

防除(殺虫剤散布)について

実際に防除日時や薬剤を決めるにあたり、次のことを総合的に判断します。
1.害虫の出現時期の予測
地域毎や気候(積算気温や日照など)によっても変わってきます。
2.薬剤(殺虫剤)の散布時期や回数の制限
薬剤の残効が人に害を及ぼしてはいけません。薬剤毎に「出荷前日まで」「裂果前まで」「収穫14日前まで」などの指定があります。また、薬剤毎に散布回数の制限もあります。
3.天候や風の影響
雨天では薬剤が流れたり薄められたりしてしまいます。なお、散布後に乾燥すればその後に雨が降っても効果が期待できるようです。
強風時には薬剤が散乱してうまく掛かりません。また、近隣の畑や家屋に薬剤が掛かってしまいます。1日の中でも早朝から10時頃までは風が穏やかですが、それ以降になると強まる傾向があります。
天気予報は重要な判断材料です。
4.虫に薬剤耐性を付けないこと
同じ種類の薬剤だけを使い続けると虫に薬剤耐性が付き、効かなくなってしまいます。異なる種類の薬剤をローテーションして使っていくことが求められます。

我が園の収穫時期と防除時期

当初は訳もわからずもらった防除暦通りに行ってきましたが、最近になってやっと害虫の生態や薬剤の特徴を考えて、少しは自分で判断できるようになってきました。

平成27(2015)年から令和2(2020)年までの我が栗園の収穫時期と、令和2年の害虫防除の様子を表にしてみました。

収穫期間と防除時期(クリック:拡大画像)

収穫期間と防除時期(PDF)(←こちらのほうが鮮明)

表にある令和2年の9/5の防除では「モスピラン顆粒水溶剤」を「ポロタン」以降の品種に散布しました。この薬剤は収穫1週間前までという制限があります。その年の気候、過去の記録、他の果樹の様子から収穫期や虫の出現が前年とほぼ同じになると想定し防除日を決めました。当然、天気予報を睨みながらになります。
表にはありませんが毎年8月初旬と中旬にはモモノゴマダラノメイガの防除を行っています。7月下旬にもやっていましたが、最近は止めています。
結果、令和2年は「銀寄」とそれ以降の品種にクリミガ(クリシギゾウムシの可能性も)の被害が多く出ました。特に10月の2週目以降では、収穫果の粉糞や産卵穴のチェックに時間を費やすことになりました。中晩生品種の防除時期はもう少し後にした方が良かったと思っています。モモノゴマダラノメイガの被害果も結構ありました。完全に抑えるのは不可能だと感じます。
令和2年はひどい暖冬でしたので、越冬害虫が多かったのではないかと思います。毎年状況が異なるのでどこまでやっても「これで良い」ということはないですね。

栗に使える殺虫剤

栗に使える殺虫剤(PDF)

現在、栗に使える殺虫剤を調査してまとめてみました。
「蝶目に効果あり」と記されていれば、対象昆虫に記載が無くてもモモノゴマダラノメイガ、ハマキガ、クリミガへの効果が期待できますので追加してあります。成虫の蛾に対しては効果があまり期待できないこともあります。ふ化した幼虫が食害を始めたときに効くように散布するのがベストだと思います。残効の長短も重要な判断材料になります。